労働保険
労働保険とは労働者災害補償保険(一般に「労災保険」といいます。) と雇用保険とを総称した言葉です。
保険給付に関しては、それぞれの保険が別個に取り扱われますが、保険料の徴収等については、 「労働保険の保険料の徴収等に関する法律」に定められており、原則的にまとめて行わなくてはなりません。
- 保険関係の成立・消滅
- 労働保険料の申告・納付手続
- 労働保険事務組合
- 上記1~3を規程しているのが「労働保険の保険料の徴収等に関する法律」。
労災保険
労災保険は「労働者災害補償保険法」という法律に定められており、労働者の業務上の事由または通勤による労働者の傷病等に対して必要な保険給付を行ない、 あわせて被災労働者の社会復帰の促進等の事業を行う制度です。 その費用は、原則として事業主の負担する保険料によってまかなわれており、労働者は保険料の負担がありません。
原則として、労働者を一人でも使用していれば、当然にこの制度の適用を受けることになります。労災保険の対象となる範囲は、労働者の「業務上の事由」または「通勤」による、負傷、疾病、障害、死亡等です。
労災保険の対象となる労働者について
労災保険は農林水産業の一部を除き、1人でも労働者を使用している事業所に強制的に保険加入が義務づけられています(個人・法人を問いません)
労災保険の対象となる労働者とは、事業主との間に実質的な使用従属関係があり、 賃金が支払われている労働者のことをいいます。労働者の雇用形態は問いません。
労災保険の対象者 | 労災保険の対象とはならない例 |
---|---|
正社員 | 自営業者 |
日雇労働者 | 同居の親族 |
アルバイト | 法人の代表・役員 |
公務員 | 日本企業の海外支店に現地採用された日本人職員 |
公務員 | 公務員 |
労災保険の対象となる災害かどうかは、「業務遂行性」と「業務起因性」という二つの要件によって判断します。
業務遂行性→労働者が労働契約の下に使用者の支配下にある状態をいう
業務起因性→業務に起因して災害が発生し、その災害によって、傷病が発生する
これらの要件は個別の事案ごとに判断され、労働基準監督署長が認定します。
労災保険制度では、本来、労働者の業務または通勤による災害に対して保険給付を行う制度であり、 経営者や役員など、労働者性のない方々は、原則、適用対象外となっています。 しかし、経営者側の立場であっても、災害の発生状況からみて、労働者に準じて保護することがふさわしいと見なされる人には、 一定の要件の下に労災保険に特別に加入することを認めている制度があります。 これが、労災保険の「特別加入制度」と呼ばれるものです。
雇用保険
労働者が失業した場合及び労働者について雇用の継続が困難となる事由が生じた場合に、労働者の生活及び雇用の安定を図るとともに、再就職を促進するための必要な給付を行う制度です。また、労働者の職業安定のために、失業の予防、雇用状態の是正および雇用機会の増大、労働者の能力の開発・向上その他労働者の福祉の増進を図るための事業も行なっています。
雇用保険の対象となる労働者について
原則として、全ての事業が適用を受け、適用除外に該当する者を除き、その従業員が被保険者となる
適用除外(被保険者とならない労働者)について
- 1週間の所定労働時間が20時間未満の者
- 同一の事業主の適用事業に継続して31日以上雇用されることが見込まれない者
- 大学や専修学校の学生・生徒等であって厚生労働省令に定める者
令和5年度の雇用保険料率(厚生労働省) ※厚生労働省の雇用保険料率にリンク
労働保険(労災保険・雇用保険)の年度更新
原則として、年度当初(毎年6月1日から7月10日まで)に概算で保険料を納付し、年度末(3月31日)に確定した保険料を算出して、保険料の過不足を確定、保険料の精算をし、さらに翌年度の概算保険料を納付するという繰り返しで行われます。この手続きは、「労働保険料概算・確定保険料申告書」を用いて、毎年6月1日から7月10日までの間に行われ、「労働保険の年度更新」といわれております。
労働保険料とは
(原則)一般保険料=賃金総額×(労災保険料率+雇用保険料率)
労働保険料は、労働者に支払う賃金の総額に保険料率(労災保険率+雇用保険率)を乗じて得た額です。
労災保険分=全額事業主負担
雇用保険分=事業主と労働者双方で負担
適用と徴収の一元化について
原則は、労働保険の適用と徴収について、労災保険、雇用保険とを一本化して処理することとしています。ただし、業種によっては、労災保険と雇用保険の適用の仕方を区別する必要があるため、保険料の申告・納付をそれぞれ別個に行う業種があります。一般には農林水産の事業や建設業が該当します。これを二元適用事業と言います。また、二元適用事業以外であって、原則通りに両保険を一本化して申告・納付できるものを一元適用事業と言います。
建設業の労働保険に関して
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建設業においては、元請会社が自ら請け負った仕事の全部または一部を下請会社に、それがまた再下請会社というように数次の請負関係が生じます。
注文者 →元請会社→ 一次下請会社 → 二次下請会社 → 三次下請会社
この請負関係の中で、元請会社のみを一括された事業の事業主とするものです。
よって、下請会社の労働者が業務中に負傷した場合には、元請会社の労災を使うことになります。
- 労災保険に加入していれば、業務中の労働者の負傷について、どんな場合にも自社の労災が使えるというわけではありません。
- 元請会社の事業主・役員、下請会社の事業主・役員、一人親方等は、労働者ではないために、特別加入がなければ、給付の対象となりません。(特別加入していれば、元請や下請問わず、原則対象となります。)
建設の事業に関する労災保険料は労務費率で計算
建設の事業は数次の請負によって行われることが常態なので、元請負人がその工事全体の支払賃金総額を正しく把握することが難しい場合があります。このため、元請負人が請け負った工事全体の請負金額に保険料率とは別に定められる労務費率(工事の請負金額に占める賃金総額の割合)を乗じて得た額を賃金総額として労災保険の保険料額を算定することが認められています。
二元適用による労災保険と雇用保険
労災保険と雇用保険を合わせて一つの保険関係として取扱い一元的に処理をする事業(一元適用事業)が一般的ですが、建設業は、二元適用事業といい、労災保険と雇用保険の適用区分を区別し、別々に処理する事業です。労災保険と雇用保険とで対象労働者や計算方法が異なりますので、実績のある当事務所にお任せください。